『尺膚診~気の医学とその臨床~』

前書きにかえて

 私が学び実践している経絡治療は、二千年前の中国で体系化された医学を基盤としています。それをそのままに模倣するのではなく、その理論を継承しながら現在の技術と医療環境を加味しつつ、今日の臨床に反映させています。 漢の時代にその病理観と治療術が完成した鍼灸医学ですが、その後の戦乱や社会状況の中で必ずしも成熟し発展したとは言えません。それは日本の鍼灸にも大きな影響を与え、経絡治療の提唱へとつながっています。そのような東洋医学の歴史と変遷を『第一章 経絡治療を学ぶため』に述べてみました。
 東西を問わず、あらゆる学問は哲学を背景としています。東洋医学のそれは、「古代中国自然思想」と呼ばれるものです。天地人三才思想と陰陽五行論の関係について『第二章 古代中国自然思想と基本学説』の中で述べました。人は自然界の一部であり、天地が織りなす大自然の営みの中にあります。そのため病も、春夏秋冬の季節との関係性の中で起こります。これらのことは、気の思想を知ることによって、より一層理解しやすくなります。
 漢の時代の鍼灸術には、難経医学によるものと霊枢医学によるものがあります。難経医学は全身の恒常性を治療対象としたトータル医療であり、霊枢医学は個々の経絡を治療対象としたパーツ医療です。これらのことは、脈状診と比較脈診として、経絡治療の立ち位置の違いとなっています。両者の生理観を「栄衛三焦論」と「臓腑経絡学説」として紹介し、その病理観・治療方針の相違点について『第三章 生理学』と『第四章 病因病証論』で比較しました。
 『第五章 四診法』では、歴代の医家たちによる望・聞・問・切診法を記しました。そして私が長年にわたって研究してきた尺膚診についても述べました。
 経絡治療は、病因に対して行う本治法と、病証に対して行う標治法を車の両輪としています。『第六章 本治法』では、私が日々の臨床で用いている病因の分類すなわち本治法の証を、病体像・尺膚診・治効機序の面から解説しています。そして『第七章 標治法』では、病体ごとの候背所見とそれに対する督脈や癒穴の選択と刺鍼の実際について書きました。
 さらに、鍼灸師として最も基本であり重要である「治療家の手」の作り方や、安心感を与えられる切経術、無痛鍼の手法についてを『第八章 治療技術』の中でまとめてみました。
 尊敬すべき恩師に導かれて、経絡治療という鍼灸の道に足を踏み入れました。多くの先輩方からの指導を受け、素晴らしい友人たちとともにそれを学んできました。そして悩み苦しんだときに、その答えを与えてくれたのは、患者さんたちでした。
 ここに四十数年にわたって得たものを、一つの形にすることが出来ました。本書が経絡治療を実践されておられる先生方のささやかなヒントになり、これから鍼灸を志す若者たちの参考になれば、法外の喜びです。
また、この本の製作に関わっていただいたすべての方々に、心からの謝意を述べたいと思います。

                                          令和二年二月吉日   澤田和一

書名:尺膚診~気の医学とその臨床~
定価:5000円(学生4000円)*送料はサービス
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